<文献紹介>

 

Dev Med Child Neurol. 2009 Oct;51 Suppl 4:134-9.

Motor mapping in cerebral palsy.

Wittenberg GF.

 

Baltimore VA Medical Center Geriatric Research, Education and Clinical Center, Baltimore, MD, USA

 

TMSを用いて脳性麻痺児の運動野のマッピングを行ったものです。脳性麻痺はhemiplegia,diplegiaの痙性麻痺タイプです。結果はTMSによって表象されるホムンクルスは個々によって異なったということです。また特に手と足関節に関してのマッピングでは、母趾と足関節部がoverlappingしたケースが報告されています。(hemiplegia, diplegia共に)治療のひとつの指針としてこのホムンクルスの変化が挙げられるという報告でした。

 

<通常の正常発達からは逸脱した個々の発達(といっていいのかどうか?)はその結果として形作られたホムンクルスが、個々によって異なるという事は理解出来ます。例えばバイオリニストの手指の領域は一般のそれよりも大きくなっていることなども同じ事だと言えます。むしろこのCPなどの場合はそれ以上に個別性を有する事も想像出来ます。また健常に発達する際の一般的なホムンクルスの共通性とは全く異なった個別のホムンクルスの構築がされていくのだろうとすれば、問題(治療)はそれをどのように意味づけしていくのか?ということになろうかと思います。良くも悪くも可塑性とは悩ましいものです>

<文献紹介>

 

Ann Neurol. 2009 Aug;66(2):146-54.

Digit-specific aberrations in the primary somatosensory cortex in Writer's cramp.

Nelson AJ, Blake DT, Chen R.

Toronto Western Research Institute, University of Toronto, Toronto, Canada.

 

書痙の一次感覚野についての研究です。fMRIを使って一次感覚野の手指領域を健常人、書痙患者間で比較検討したものです。結果はBA3bで書痙患者の書字中における1,2,3指の指間距離再現の狭小化と活動時のオーバーラップ、ならびに4,5指の拇指側へのシフトが生じていました。またBA3aでも活動性低下を認めています。

書痙患者の治療は1,2,3指の指間距離の正しい再現性を再構築する事であろう。とされていました。

 

<正に運動と知覚の円環を暗に証明するような話ですね。書痙ではないのですがバイオリニストやピアニストなどにも同様の症状が生じる場合がありますね。恐らく脳内では殆ど同じ事が生じているのでしょう。>

 

<文献紹介>

 

Prolonged muscular flaccidity after stroke. Morphological and functional brain alterations.

Pantano P, Formisano R, Ricci M, Di Piero V, Sabatini U, Barbanti P, Fiorelli M, Bozzao L, Lenzi GL.

Department of Neurological Sciences, University of Rome La Sapienza, Italy.

Brain. 1995 Oct;118 ( Pt 5):1329-38.

 

脳卒中片麻痺の運動障害(麻痺)は一般的に痙性麻痺を呈しますが、中には遷延性に弛緩性麻痺の状態を示し、重篤な運動障害を残す場合もあります。この研究はそれらの麻痺の性状にによる原因を脳の構造学的、機能学的な見地から調査されたものです。

対象は発症からの経過は平均3ヶ月の42名の脳梗塞患者です。CT,MRI,SPECTを使用して臨床所見に関連付けています。

麻痺の程度は、弛緩性麻痺群で重度であったが、脳虚血のサイズはいずれも平均的なものであり、痙性片麻痺群との差異はなかった。

梗塞部位による違いでは、遷延性弛緩性麻痺群ではレンズ核に病変を認めた。また、灌流の状態から見れば弛緩性麻痺群は痙性麻痺群に比し、視床、対側小脳半球で低値を示していた。

更に皮質下のみの障害を示したグループにおいても同側前頭葉連合野での灌流の低値を示した。

脳卒中におけるレンズ核の障害は遷延性弛緩性麻痺を招来する可能性が示唆された結果となったが、他の部位の血流低下もまたその誘因であるかも知れない。

 

<遷延性弛緩性麻痺については臨床場面でも時折、診られると思います。皮質ー皮質下の運動制御に関するループはその読解が極めて難しいとされているものの一つですね。即ち、皮質ー基底核ー視床ー皮質、皮質ー橋ー小脳ー視床ー皮質という2つの構造(皮質ー皮質下)に関与するループの広範囲で重篤なケースの場合には遷延性弛緩性麻痺を招来する可能性があるという解釈で良いかと思われます。尚、レンズ核は内包外側に位置します。このことも改めて考えてみたいと思います。>

 

<文献紹介>

 

Reduced Left Angular Gyrus Volume in First-Episode Schizophrenia.

Jay Nierenberg, Dean F.Salisbury,James J.Levitt

Am J Psychiatry 2005;162:1539-1541

 

従来より慢性期統合失調症患者(S.C)の左右角回部のサイズについては、左角回のボリュームが右に比しサイズダウンするという報告がありますが、この研究では発症初期の段階の患者について調査したものです。

14名のS.C患者(男性12名、女性2名)、比較は14名の健常者を対象にしています。MRIにより後方領域(中心後回、縁上回、角回の皮質部)のサイズについて比較検討しています。

 

S.C群、健常群との比較ではS.C群に左角回部の有意な容積減少が見られ、健常群よりも平均で14.8%減少していた。また角回部以外については両者間に差は認められなかった。という結果でした。

 

<以前から、S.Cの頭頂葉萎縮についての報告はいくつか散見されますが、今回のような初期のS.Cについての報告は初めて読みました。S.Cの病期初期において左角回部に限局的に生じるこの容積減少が臨床的にどのような意味を持つのか?については大変興味深いところです。

角回、縁上回は前方連合野との連絡が極めて密な部分です。とりわけ前方言語野や前頭前野背外側部などとの機能的な連絡があります。左角回部の機能に変容が生じれば、言語自体或いは思考の言語化の際に何らかの変化を来す事が予想出来ます。またそれに基づく運動、行為の変化なども考えられます。

S.Cに診られる”新造語”も左角回病変が関係するのでは?と思えます。また、頭頂葉萎縮は体性感覚異常を来たすであろうし、身体イメージの変容にも繫がる可能性があるのでは?と考えられます。(事実、S.Cでは体性感覚異常や身体の自己所有感が希薄になるなどの訴えが多く診られますね)>

 

<文献紹介>

 

Infant's brain responses to live televised action.

Shimada S,Hariki K.

Neuroimage 2006 Aug 15;32(2):930-9. Epub 2006 May 6.

 

ミラーニューロンに関するものです。生後6~7ヶ月の乳幼児に対してNIRSを使用しています。

他人の行為を観察している時にも自分があたかもそれをしているかの如く作動するものが、ミラーニューロンと言われるものですが、ここでは生後6~7ヶ月の乳幼児にも既にミラーニューロンが存在しているのか?というものです。実験は次のような方法です。①玩具を大人の女性がいじっているのを見る。②玩具が自動的に(遠隔に操作されている)動いているのを見る。加えてこの一連の状況を”生”で見るのか、”テレビ画面”で見るのか。といった条件です。この時の運動野をNIRSで調べたものです。

 

結果は女性が玩具をいじっているのを見た時には、活動を示したが、自動的に動いている際には活動しなかった。というものでした。また、直接的に見るのか、間接的に見るのか、という条件においては直接に観察した際に作動し、テレビ画面での観察では作動しなかったとのことです。

つまり結果的には、この時期の乳幼児にもしっかりとミラーニューロンが作動しているというものです。

 

<やはり”ライブ”での観察はミラーニューロンの典型的反応であるということでしょうね。また、目前で生じる現象が「現実か非現実か」を既に知っているということになるのでしょう。>

 

<文献紹介>

 

Orthostaric myoclonus: a contributor to gait decline in selected elderly.

Glass GA, Ashlskorg JE, Matsumoto JY.

Neurology 2007 May 22;68(21):1826 - 30

 

タイトルの" Orthostatic myoclonus "に思わず目が止まりました。

あのMayo clinicからのものです。Mayoでのretrospectiveな調査です。2002 - 2006の5年間に渡って行われたもので、Orthostatic myoclonusを呈した患者15名(64歳〜81歳)が報告されています。疾患では中枢神経系変性疾患や中枢神経系異常が明確でないものも含まれています。13名のOrthostatic myoclonusの発症時のエピソードでは立位時の下肢の震えの訴えであり、また震えを指摘されたというケースでした。この13名の患者は「歩行の開始が困難」でありまた「歩行失行」などと指摘される事もありました。一般的には正常圧水頭症や起立性振戦などを疑うものと考えられるとしている。

表面筋電図での解析では立位姿勢時に短い筋放電を認めたとしています。幾人かの患者にはクロナゼパムが効果的であったとの事です。

Orthostatic myoclonusは老年期の歩行障害のひとつであり、緩徐進行性であり特異的な臨床症状を呈する疾患である。と報告されていました。

 

<時折、私たちもこのような?患者さんを経験する事があると思います。NPHなどではありますがNPHは否定的なケースでも、歩き始めに所謂、frozen gait様になったり、立位姿勢になった際に膝周囲がcrampを起こしたような状態になったり、或いは足関節周囲が震えてみたりと、立位という条件で誘発される一連の現象です。皆さんも経験無いでしょうか?>

 

<文献紹介>

 

The human mirror neuron system: A link between action observation and social skills.

Lindsay M.Oberman. Jaime A. Pineda. Vilayanur S. Ramachandran

SCAN(2007)2,62-66

 

カリフォルニア大学サンディエゴ校、Ramachandran達の論文です。mirror neuron続きで読んでみました。ここではMu rhythm suppressionからmirror neuronの同定をやってます。EEGで8 - 13Hzの周波数帯域を示すμ波が提示される視覚条件の内容によってどのようにsupressionを受けるか否か?を見たものです。μ波(Mu と表記)とは国際式10−20法でC3 - Cz - C4(運動野)に運動や視覚刺激で抑制される脳波を指します。

 

それでこの論文では20名の大学生を対象にして4つの条件の視覚刺激を与えてます。その視覚刺激の内容は徐々に社会的な意味を多く含むというものです。つまり①white noiseとしての映像 ②3人がそれぞれにボールを投げてそれを自分で取る ③同じ3人がそれぞれにボールをパスし合う ④3人がパスしているボールがその画面を見ている被験者の方に向かって投げられる(そのパスゲームに参加すると解釈出来る状況)という4つの条件です。それぞれ①ベースライン ②non-interacting ③social action 観察者型 ④social action 参加型 つまり徐々にsocial度が大きくなっているというものですから、もしMu rhythm suppressionの度合いがmirror neuronを反映していると仮定するなら、①をべースとして④が最もsuppressionされるという事になる訳です。

映像を見て、自らもそのゲームに参加しているというふうに捉える事がsocialな心的状態であり、mirror neuronの活動として考えられるのでは?というものです。

結果は予想通り、④のMu rhythm suppressionが最大であったとのことでした。

 

mirror neuron systemは動作を観察する時に反応するということのみならず、その動作に含有された社会的適応の意味をも表象する。と結論しています。

 

<ここのところ暫く、mirror neuron systemに関する論文を読んでますが、その量たるや・・・恐ろしい程です。pubMedだけでも驚きの量ですよ。もっと速読出来ればいいのですが・・・>

 

<文献紹介>

 

Some effects of a model's performance on an observer's electromyographic activity.

Berger SM, Hadley S

Am J Psychol. 1975 Jun;88(2):263-76.

 

他人の”腕相撲”や”どもりながら喋る”。という状況を観察している時の腕や口周囲筋からの筋活動を筋電図で捉えたものです。結果は明らかに観察動作に応じた部位の筋活動が増加したというものです。

 

<マルコ・イアコボー二の「ミラーニューロンの発見」から参考文献で引いてみました。ミラーニューロンの発見が90年代ですから、この論文はそれから遡ること更に15年ほど前になります。当時は未だミラーニューロンという考え方自体、当然ながら無い頃です。Some effects of 〜とタイトルにありますが、この”Some effects”こそが、後のノーベルプライズに繫がるとは誰も想像もしなかった頃の話です。>

<文献紹介>

 

Sex differences in spinal excitability during observation of bipedal locomotion.

Cheng Y, Decety J, Lin CP, Hsieh JC, Hung D, Tzeng OJ.

Neuroreport. 2007 Jun 11;18(9):887-90.

 

あのDecetyも名を連ねています。mirror neuronに関連する文献をいくつか読んでいたら、Decetyの名が目に入り読んでみました。

要旨は歩行に関する動作を観察している際、脊髄レベルでの興奮性に性差があるか?というものです。

方法は男女それぞれのグループに、両側の立位での足関節底屈、立位でじっとしている、足関節背屈をビデオ撮影したものを提示し、同時に左 M.SoleusよりHoffmann reflexを導出し、そのHoffmann reflexの解析を行った結果、女性グループのみにHoffmann reflexの興奮性亢進が認められたというものでした。ヒトのmirror neuronという機能を脊髄レベルで捉えた場合にも性差を認めたという結果です。

 

<一般的にもよく言われることの一つに、”女性は勘が鋭い”というのがあります。また”言語的である”(よく喋ると言ったら語弊があるか?・・・)というのも。兎角、男性には頭の痛い話しですね。(私だけかも知れませんが・・・)mirror neuronに関する研究は皮質レベルでのものが多いのですが、Final common pathwayとしての脊髄レベルでこれを考える事は意義深いと思います。

 

<文献紹介>

 

Mona Lisa syndrome:ideopathic facial paralysis during pregnancy

 

Hellebrand MC,Friebe-hoffman U.

Z Geburtshilfe Neonatol.2006 Aug.210(4);126-34

 

ダヴィンチが”モナリサ”を描く(1503-1506)少し前に彼女は妊娠していた可能性がある。

というのも、近年の研究によれば彼女は、Bell's palsyに罹患していたのでは?という説があるからだ。あの口元の”微笑み”は実は、顔面神経の過誤再支配によるsynkinesisや顔面筋の硬直がその真相ではないか?という論説である。事実、妊婦の顔面神経麻痺罹患率は非妊婦の約3.3倍にもなるという報告もある。特に妊娠中の顔面神経麻痺に対する効果的な治療法は未だ確立されていない。

 

<世界を魅了するあの”微笑み”が実はBell麻痺によるsynkinesisによってもたらされているとしたら、この絵画に秘められたenigma(謎)も急に覚めてしまいますね。また一説によれば(主に歯科領域ですが)彼女は前歯を折っていたのでは?とも言われています。前歯を欠損した人の口元も、”どこか笑みを浮かべたよう”になるそうです。そう言われるとそんな気もします。しかし何れにせよ結局、色んな意味で謎を秘めています。流石、ダヴィンチ!なのかも知れませんね・・・>

 

<追記ですが、前歯の欠損という事に関して、もう少し詳しく知りたい方は、J Forensic Sci. 1992 Nov;37(6):1706-11. summaryはPubmedで検索出来ます。ご参照下さい>

<文献紹介>

 

The neural mechanism associated with the processing of onomatopoeic sounds.

 

Hashimoto T,Usui N, Taira M,

Department of physiology,Faculty of Letters,Keio University,

Neuroimage 2006 Juli 15;31(4):1762-70.Epub 2006 Apr.17

 

擬態語(onomatopoeic sounds)の脳内表象をfMRIを使って観察した研究です。このオノマトペは我々の日本語には特に豊かであるとも言われています。被験者には4つの音を与えます。即ちオノマトペ、名詞、動物の鳴き声、純粋なノイズの4種類です。それで結果はというと、脳が最も広範囲に賦活されたのが、オノマトペでした。因みに左STGの前方、両側STSから中側頭回、両側下前頭回であり、中でも右STSの賦活程度は名詞や環境音よりも大きかったとされています。結論はオノマトペは人間の口音や非口音(動物の鳴き声)をも包括したものであり、名詞と動物の鳴き声との間の橋渡しのような役割を果たして来たのではないだろうか?というものでした。

 

 

<オノマトペの脳賦活状態は他のどの品詞よりも広範囲に亘っていたという結果は、オノマトペが動詞や副詞、名詞などの橋渡しをしているというように解釈出来る可能性があります。つまり視覚、聴覚、運動、体性感覚などを複合している事が予想されます。ラマチャンドランらの報告にもありますが、例のブーバ、キキ問題なども全くこれに相当する事だと思います。子供の言語発達においてもオノマトペの持つ音印象が感覚経験の印象との間の言語的シンボルの架橋をやってるのではという論説もあります。これとは少し離れるかも知れませんが、(しかし遠い話ではない)日本語でも英語でも夫々”大きい”、”小さい”・”big や huge”、”little や small”という言葉を声に出してみれば、その時の口の形も全く比例して大きかったり、小さかったりする。日本語も英語も同じである事に気付くと思います。言語の萌芽は言語圏などという現実の問題を遥かに超えた人類の進化の歴史に深く刻み込まれている事が理解出来ると思います。つまりは、この身体に如何に深く根ざしたものかが解ると思います。

前回の福岡認知神経リハビリテーション研究会の勉強会でテーマになった言語の話の時も少し出ましたが、やはり間違いなく言語障害(失語症は基より)という現行のカテゴライズやパラダイムを再考する必要性があると再認識しています。>

<文献紹介>

 

Macaques (Macaca nemestrina) recognize when they are being imitated
      Annika Paukner, James R Anderson, Eleonora Borelli
      Elisabetta Visalberghi, and Pier F Ferrari
      Biol.Lett.(2005) 1,219 - 222  published online 28 April 2005
ある書籍の中で興味深い記載があったので、早速、巻末の参考文献を探して読んでみました。
タイトルから察しても分かると思いますが、メンバーの中にはあのイタリア、パルマ大学のメンバーがいます。
マカクサルを10匹使って実験しています。実験のモデルは2名の検査者とマカクサルが対面して位置します。まず最初に一辺が5.5cmの木製のキュービックを2名の検者がそれぞれ手に持ちます。そのキュービックには所々に穴が開いています。そして、いかにもサルがしそうな行動、例えば穴に指を入れてみたり、噛んでみたりというような行動を目の前のサルに見せるのです。まさにサルに成りきって(猿真似です)そのキュービックを扱うのです。
次に3つ目のキュービックをサルに手渡します。ここで検者の2名のうち、1人は、サルがキュービックを扱う仕方を全く同じように、シンクロして真似るようにします。もう一方はサルの行動とシンクロしないように注意してキュービックを扱うのです。即ち、シンクロする検者はサルが噛めば、同時に噛むし、穴に指を差し込めば同時に同じようにするのです。そしてこの一連の状況をビデオ録画しておき、サルが視線を落とす時間の長さについてチェックしています。
つまり、自らの動きにシンクロしている検者と、シンクロしない検者、それぞれの手元を見る時間の長さを調査したものです。
結果は、シンクロしている方を注視している時間が長かったというものでした。この結果から、サルは自分自身の行動が真似されているという事を認識しているというものでした。しかしながら、サルが行動を突然、中止したり、変更したりして、その事(自分が真似されていること)を確認するというような行為は認められなかったとしています。(人間ならばこの認識プロセスがあると思いますが)従って、サルには自分が真似されているという認識は存在するであろうが、それは意識下で行われている可能性があるのではないか。という結果でした。
<恐るべしミラーニューロン、恐るべしマカクサルです。失行症が行っている動作を模倣した場合、それに気付くことが出来るでしょうか?恐らく出来ない可能性が高いと思われます。模倣されている事に気付くことが出来るのであれば、自己や他の動作をモニタリング出来ている事になるからです>

<文献紹介>

 

The amygdala of patients with Parkinson's disease is silent in response to fearful facial expressions

 

         Neuroscience. 131:523-34 2005

         Yoshimura N, Kawamura M, Masaoka Y. Homma I.

 

パーキンソン病において表情の認識に障害が起こることは以前から言われているのですが、この論文もそのタイトルが示す通りの結果となっています。

 

実験条件は視覚刺激提示した(normal、驚き、恐怖を表す表情の写真をそれぞれ500ms提示)際のERPsを計測しています。対象はコントロールとして10名の健常人、9名のパーキンソン病患者です。それでERPsの結果はどうだったかというと、恐怖の表情の提示では健常者10名のうち7名は扁桃体、両側の紡錘状回、上側頭回、海馬傍回、小脳などに活動を認めたのに対してパーキンソン病群では、扁桃体の活動は観られず、むしろ頭頂連合野の活動が観察されたというものでした。パーキンソン病によるドパミンの欠乏が扁桃体の機能不全を招来し、表情の認識(恐怖表情)が低下したというものでした。

 

<この論文の結果を考える時、パーキンソン病患者が表情の認識(恐怖の表情)を頭頂連合野で代償的に機能させているのなら、ある意味では、これはミラーニューロンの働きに依存しているともいえるのでは?・・・。というのも、頭頂葉は自己の動きをモニタリングすると同時に他者の動きのモニタリングにも作用している領域であるからです>

<文献紹介>

 

Sign language aphasia during left-hemisphere Amytal injection

 

        Nature.1986 Jul 24-30;322(6077):363-5

        Damasio A, Bellugi U, Damasio H, Poizner H, Van Gilder J.

 

あのDamasioの論文です。またPoiznerも名を連ねています。タイトルにもありますがAmytal test(Wada test)が1986年という時代を彷彿とさせます。

 

右側頭葉切除術が予定された患者に対してバルビツール剤を左頚動脈より注入し半球機能の同定をするWada test(一過性に半球機能を抑制させ言語の半球優位性を同定するテスト)の際と術後に実験されたものです。実験対象となった患者は米語手話通訳者です。患者は右利き、emission tomography検査においてもBroca、Wernicke area共に左半球優位が同定されています。

それでどうだったかというとWada testの間中、音声言語・手話共に著しい失語を呈し、その後行われた右側頭葉切除術後の言語機能は正常であったというものです。つまり言語能力は聴覚ー空間モダリティのみならず、視覚ー聴覚モダリティも同様にそのベースを形成しているという結論です。

 

<世間一般に理解されている「手話」(例えば書店で見かける「今日から始める手話」のような手話の意)と、この論文で紹介されている”手話”は全く別のものです。手話には二通りあるのです。nativeの使う手話と健聴者のそれとは根源的に異なります。手話言語と音声言語は全く同じなのです。これは同時に言語におけるピジン化とクレオール化にも通底することです。

また、言語が手で表現されることは、”手”というものを考える上でも非常に意味深い事だと思われます>

 

<文献紹介>

 

Dynamics of motor network overactivation after stratocapsular stroke

 a longitudinal PET study using a fixed-performance paradigm

 

        stroke.2001;32:2534-2542

        Cinzia Calautti,MD; Fracois Leroy,MD; Jean-Yves Guincestre,MD; Jean-Claude Baron,MD

 

 以前、紹介したPerfetti先生の論文「放散反応」:文献的考察の中に紹介されていた「セラピストが読んでおくべき論文」中の一つです。今回で2つ目ですね。

 

前回、紹介したものはサルを使っての人工的な脳虚血後のactivationの変化についてでしたが、これは脳卒中患者が対象となっています(全員右片麻痺)。PETを使って運動関連領野のactivationの変化を経時的に観たものです。発症から7週まで、31週までの計2回、PETを撮影しています。(以下それぞれPET1,PET2と表記します)タスクは聴覚刺激を与え(1.26Hzのcue)麻痺側の母指と示指間でのタッピングです。また同時に比較対象として年齢など患者群とマッチングさせた健常者群を設定しています。

尚、患者群の運動機能はPET1に比しPET2の時期では明らかに回復が観られています。

結果はPET1では手に関与する両側皮質領域や両側の運動関連領野に明らかなoveractivationが認められています。そしてPET2ではこれらのoveractivationは減少しています。しかしPET2では新たにLt.prefrontal, putamen, premotor cortexなどにoveractivationを認めています。

 

 

<母指ー示指によるタッピングという比較的simpleな運動においてでさえ、皮質下病変(今回はstratocapsular strokeですので)を有した患者群では、とりわけPET1の段階でこのようなoveractivationが生じているという事は、脳卒中初期のリハビリテーションにおいて、その早期から”坐位”、”起立”などというような主に”動作”を訓練とする現行の”早期リハ”と言われている介入の在り方は、如何に大きな問題を孕んでいるかという事が想像出来る。

本論文の最後で、このような遅い時期(発症からの経過)において生じている各部位のoveractivationは動作の代償であるかもしれない(学習とはこのような新しい機能代償により生じているのかもしれない)し、また、あるタスクをどのように認識するか、或いは注意するかによって変化してくるものであろう。と結語しています。>

 

<文献紹介>

 

Evidence of activity-dependent withdrawal of corticospinal projections during human development

 

       Neulorogy.2001 Nov 13;57(9):1543-54

       Eyre JA, Taylor JP, Villagre F, Smith M, Miller S.

 

 魅力的なタイトルに思わず読みました。皮質脊髄路が成長・発達に伴って"withdrawal"するというものです。発達に伴うニューロンの脱落は周知の事ですが、そのことにも関連していると思われます。

この論文ではTMSを使い皮質脊髄路の機能的、形態学的な変化を観ています。TMSでのパラメーターについては、皮質運動野を刺激、MEPsを大胸筋、上腕二頭筋、第一背側骨間筋から採取。その潜時、閾値、電位を計測。

対象は9名の新生児から2歳児までの2年間について経時的に調査、10名の脳性麻痺による片麻痺、8名の後天的な片麻痺(一般的な片麻痺)、85名の健常人(コントロール群であり、年齢は新生児から成人まで)。

結果は①新生児では潜時が同側反応の方が対側反応よりも短かった。閾値、電位共に同側、対側に差は無かった。0〜3ヶ月の間で両側共に閾値は上昇した。

②3ヶ月〜18ヶ月、同側は電位減少し閾値は上昇、潜時の延長を示した。③この同側に観られた電位減少、潜時延長という変化は後天的な片麻痺群で同様の結果を示した。④③に反して脳性麻痺群では反対側と同様のパターンを示した。(同側とほぼ同じという意)

 

<出生時には錐体路の非交差性線維の機能は潜時、電位、閾値共に交差性のものと比較して差は無いと言える。そして潜時については3ヶ月〜18ヶ月にかけてはむしろ対側よりも短かった。その後、徐々に同側の反応は弱くなっていく。つまりこの頃から機能としての錐体交差が確立されていくのだろう。脳性麻痺では同側経路の機能が極めて大きいことも示唆している。人間の成長に伴い皮質脊髄路軸索の”機能的脱落”が生じていくことが読み取れます>

 

それにしても、私の昔からの疑問ですが、そもそも何故、”交差”する必要があったのでしょうか?

個人的には「元々、交差していなかった経路が”後天的”に交差した」と思っているのですが・・どうでしょうか?

 

<文献紹介>

 

Lateralized asymmetry of facial motor evoked potentials

 

     Neurology.2005 Aug 23;65(4):541-4

     Triggs WJ, Ghacibeh G, Springer U, Bowers D.

 

 またまた顔面神経に関する論文です。タイトルが示すように顔面神経の半球優位性についてのものです。方法はTMSを用いて皮質刺激し、その際の誘発運動電位(MEPs)を両側の口輪筋からpick up。その電位を左右半球間で比較し、半球のlateralityをみたものです。

対象は50名。対象は両側口輪筋を収縮中にTMSを実施。その際のMEPsを計測しANOVA処理、結果は40名から両側口輪筋からMEPsが記録され、左口輪筋のpotentialが右側よりも優位に大きかったとのこと。(p<0.0001)。つまり、口輪筋の興奮性には半球優位性があるという結果でした。以前にも紹介した論文と同様に、右半球が顔面筋を優位に支配しており、即ち右半球が”顔の表情”を作るという結論と同様のものとなった。

 

<臨床的にも劣位半球損傷の場合、”表情が乏しい感”を感じることが多いですね。納得です。> 

 

<文献紹介> 

Reorganization of Remote Cortical Regions After Ischemic Brain Injury:A Potential Substrate for Stroke Recovery

  J Neurophysiol 89:3205-3214 2003;10

  S.B.Frost, S.Barbay, K.M.Friel, E.J.Plautz,and R.J.Nudo

 

以前、Perfetti先生が書かれた「放散反応」という論文の中に「セラピストが読んでおくべき論文」として文献が4つほど紹介されていましたが、これはその中の一つです。

 

虚血により脳梗塞が生じた場合、脳組織(機能)の再生はどのように起こるのか?という問題については、数多くの研究報告があるが、未だに不明な部分も数多く残されているのが現状です。そこでこの研究ではサルの1次運動野(M1)の手を表象する領域を微細電気刺激により同定しておいて、その後に人工的に虚血を起こし、つまり人為的に脳梗塞を発生させてその後の脳組織の機能再建の状態を継時的にみたものです。

実はM1の手の再現領域の同定と共にPMV(ventral premotor cortex)の手の再現部位についても同定をしてます。そして梗塞後にこの腹側前運動野(PMV)にどのような変化が生じるかを見たものです。

脳梗塞から12週後のPMVの手に関係する領域は、梗塞前よりも平均36.0±20.8%増加したとのこと。

(平均というのは4個体のサルが実験に参加している)

つまり、M1に損傷を受けた場合などに、その部位から離れた領域に、このような大きな変化が生じているということが示される結果となっています。しかし同時に、顔面に関する領域や手よりもより近位部などに関する領域、あるいはno responceの領域も増加しているものもあります。個体差も大きく一概には言えませんが、間違いなくPMVには梗塞前に比して手の領域やその他の領域に対応するような神経連絡の回路に変化が生じています。

 

<一般的には脳が「活性化」することが「正」のイメージを持って迎えられるような風潮ですが、実はこれを「過興奮」と捉えた場合、諸手をあげて「正」とする訳にはいかないのではないでしょうか。

脳卒中片麻痺に診られる放散反応などは実はこのような過興奮が大いに関係している可能性があるとも考えられるわけです。機能乖離と同様にこの過興奮という考え方も、我々の臨床介入において極めて重大な意味を含むことではないでしょうか?>

<文献紹介>

 

DTI tractography of the human brain's language pathways

      Cereb Cortex.2008 Nov;18(11):2471-82.

 

      Glasser MF,Rilling JK

 

Diffusion Tensor Imaging(DTI)tractographyを使用しarculate fasciculus(弓状束)の線維結合状態を画像化し報告したもの(弓状束は側頭葉と前頭葉下部言語野との連絡です)。20名の男性を対象として実験しており、弓状束を言語機能的に2つの経路に分けて仮説立てている。即ち、STGとMTG,夫々が言語学的に構造機能学的に分かれているか?についての実験です。言語機能学的には語彙・意味処理と音韻処理に大別されたタスクを与えられた際のDTIの結果では、STGは左脳に限局して音韻処理に関わり、MTGは左脳優位に語彙・意味処理に関与しているのではと推測される。というものでした。

 

<視覚経路や聴覚経路に2つの経路がある事は周知ですが、やはり!言語機能学的にも同じであるということですね。これはまた別の論文 ventral and dorsal pathways for language (今、読んでますが難しい)にも同じようなことが述べられています。失語症を考える上で重要な事だと思います。読み終わったらまた報告します。>

 

<文献紹介>

 

Sensory deficit in Parkinson’s disease: evidence of a cutaneous denervation.

   Brain 2008 Jul; 131:1903 – 11. Epub 2008 May 31.

 

Nolano M, Provitera V, Estraneo A, Selim MM, Caporaso G, Stancanelli A,
Sltalamacchia AM, Lanzillo B, Santoro L.
Neurology Departments S. Maugeri Foundation, Medical Center of TeleseTerme(BN),Via Banghi Vecchi, 1-82037  Telese Terme (BN), Italy.

 

 パーキンソン病における感覚障害についての研究ですが、皮神経レベルでの末梢神経障害が生じるという

 内容のものです。拙訳参照下さい。

PK sennsory deficit
PK sensory deficit.pdf
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<文献紹介>

 

  Clinical studies on chaddock reflex

      Hokkaido Igaku Zasshi  1982 Nov;57(6):741-51

      Toshiro K

 

 1982年の文献ですが、BabinskiとChaddock reflexについての研究です。100名を対象にして6種の病的反射を診ているのですが、その中で出現率の最も高かったものは、Chaddock reflexだったという報告です。(Chaddockは97.1%、Babinskiは80.3%と報告されています)

それでどうのような実験だったかというと、EHLとFHBそれぞれに針電極を挿入し、病的反射を誘発する部位(足部、下腿の7箇所)を設定し、そこに電気刺激を実施。その際の各筋からの筋放電状況を観察しています。結果は、EHL活動誘発にはChaddockの手技領域での刺激が最適であったというものです。

 

 

考えてみれば、外果下端部はsural nerveが走行していますね(Babinski反射を診る際の足底外側部も suralの領域ですね)因みにChaddockはBabinskiの弟子です。

<文献紹介>

 

2007 Feb;130(Pt 2):450-6.
Restoration of normal motor control in Parkinson's disease during REM sleep.

 

summaryを拙訳しています。PDFでダウンロード出来ます。

Restoration of normal motor control in Parkinson's disease during REM sleep.
Restoration of normal motor control in P
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<文献紹介>

 

    Encording of human action in Broca's area

 

    Brain. 2009 Jul;132:1980-8. Epub 2009 May 14.

    Fazio P, Cantagallo A, Craighero L,

    Section of Human Physiology, University of Ferrara, Ferrara, Italy.

 

 イタリア、Ferrara大学の報告です。魅力的なタイトルだったので読んでみました。

 

 Broca's area については、この百年間以上前からの「言語産出」の場であるという定説の他に、文法分析、数学的計算、音楽産生などに加え、近年の研究では、他の行動の理解。手や口の動きを観察する際に反応する。などといった報告がされています。そしてそれらは mirror neuron systemを構成する要素の一つであるともいわれています。そうだとすればBroca's aphasiaが同様にapraxiaを起こす事は考え得ることであるのだが・・・・(実際にはBroca areaに損傷を受けた場合にapraxiaを呈するケースは少ないと思われるが・・・・) この研究では、Broca areaに損傷を受けaphasiaを示し、apraxiaを認めないという患者を対象に、人間がある行為をしている動画映像を基に何コマかの画像を作成し、それをコンピュータ画面に提示する。その際にそれらの一連の行為画像の順序をランダムにしておき、患者はそれを正しい画像の順序に並べ替えるというタスクを与えられている。結果は正しい順序で並べ替えることにエラーを生じた。というものでした。

 

<Broca area単独の障害ではaphasiaを来たさないという報告があるのですが・・・まぁ、それはそれとして。これを読んで考えることは、やはり「言語」を考える時、従来の言語という捉え方を根本から考え直す必要があると確信しました。>

<文献紹介>

 

  Effect of mental imagery of a motor task on the Hoffmann reflex

 

   Behav Brain Res.2003 Jun 16;142(1-2):81-7.

 

   Hale BS,Raglin JS, Koceja DM.  Department of Kinesiology, Indiana University,HPER 112,

   Bloomington,IN 47404,USA.

 

  mental imagery課題中、ターゲットとする筋からHoffmann reflex waveをピックアップし、その興奮性の変化を捉えようとしたものです。23名(平均年齢23.3歳±3.2)の被験者を対象に右足関節底屈のmental imageryを最大強度の40.60.80.100%の4種の条件を課しています。

 尚、background EMGも同時にしっかりとチェックしている念の入れようで、全部で15回の試行を行ってデータを採っています。結果はH波amplitudeの線形的な増大を示しています。

 

 この結果をどのように考えるか?! 私個人的にはこの研究結果も勿論ですが、その意図する所など、極めて興味深いものです。

 

<文献紹介>

 

     Comparison of Facial Nerve Paralysis in Adults and Children

 

Yonsei Med J. 2008 October 31; 49(5): 725–734.
Published online 2008 October 31. doi: 10.3349/ymj.2008.49.5.725.
PMCID: PMC2615370

Chang Il Cha, Chang Kee Hong, Moon Suh Park, and Seung Geun Yeo
Department of Otolaryngology, The College of Medicine, Kyung Hee University, Seoul, Korea.

 

 顔面神経麻痺の原因とその予後について、小児と成人間で差があるのか?否か?についてのレトロスペクティブな研究報告です。0歳児から88歳までの975名を対象とした、1986年から2005年までのデータを基に調査されています。原因としては何れの群も、Bell麻痺が約半数を占め、その後に感染、外傷と

続きます。

 回復に関しては、成人のBell麻痺で91.4%、小児では93.1%、感染では89%、90.9%、外傷性では、64.3%、42.9%との事。(尚、小児外傷には分娩時外傷が含まれてます)結論としては、顔面神経麻痺の原因、予後共に成人、小児間での差は無いというものでした。